不動産投資を始める理由はいろいろあります。
給料以外の収入が欲しい、老後の私的年金にしたい、または生命保険代わりになど、人によってそのきっかけは変わってくるでしょう。

そして最近、注目を集め始めているのが「不動産投資が相続税対策になる」という事です。
相続税対策として終身保険を活用するケースは耳したことがあるかもしれませんが、本当に不動産投資でも可能なのでしょうか?



目次
1. 相続税対策から見た、終身保険のメリットとデメリット
2. 典型的な遺産分割の例
3. 不動産投資で解決する方法
4. 生命保険が唯一の解決方法ではない

1.相続税対策から見た、終身保険のメリットとデメリット


そもそも相続税とは、被相続人(亡くなった方)の財産を相続した際、その取得した人にかかる税金です。
取得した遺産(財産)に課税されるため、その総額が増えるほど税金の額も大きくなります。
2015年に相続税の基礎控除が改正され課税対象者も大幅に増えたことにより、以前より相続税申告も身近なものになっているのです。
まずは、相続税対策として一番知られている「終身保険」のメリットとデメリットを見てみましょう。


■終身保険での相続税対策
終身保険とは、被保険者が死亡した際に、設定された受取人が保険金を受け取れる生命保険になります。
財産はその持ち主が亡くなった場合、本来であれば全てが遺産となり相続人に分配されるのですが、生命保険をかけていた場合はその分が指定された受取人の固有財産になります。被相続人(亡くなった方)の相続財産に含まれないため、受けとった保険金は遺産分割の対象になりません。
そのため、あらかじめ財産を渡したい人を受取人に指定しておけば、そのままの額の現金を遺せることになりますし、相続財産に含まれないためにその分の相続税も課されないのです。
つまり終身保険の最大のメリットは、遺産分割争いを防ぎつつ相続対策としても有効だと言えるのです。


■終身保険の問題点
相続税対策には良いと思われる終身保険ですが、もちろんデメリットも存在しています。
終身保険は途中で解約することも可能で、払い込んだお金は返戻金として戻ってきますが、もちろんその金額は保障額や加入年齢、そこまでの払い込みした期間によって変化します。解約返戻金が保険料を大きく下回ることもあり、早期に解約すれば大きな損失が発生しますし、運用利回りも低いため、貯蓄という意味では効果はあまりないのが事実です。




2.典型的な遺産分割の例


まずは遺産分割でよくあるケースで考えてみましょう。

自宅不動産2億円と現金7,000万円を保有した母親が被相続人、同居している長男と別居している次男の2人が相続人、父親はすでに亡くなっており、長男が受取人として500万円の死亡保険をかけていたという例です。
このケースですと、長男は母親と住んでいたことから長男が不動産、次男は現金・・・となれば簡単な話でしょうが、それでは現金7,000万円しか受け取れない次男が不公平を感じるのは当然になります。
また、2億円の自宅不動産を兄弟間で共有にすれば公平にはなるものの、それはさらに相続問題を厄介なものにするだけですので、そのような方法は取らず同居していた長男がそのまま取得し居住するとします。

不動産を相続する長男には、小規模宅地等の特例(被相続人と一緒に住んでいた土地を相続したのであれば330㎡までは80%減額、ここでは1億2,000万円を想定)が適応されるものの、約1,000万円ほどの納税資金が必要になります。
幸いにも母親の死亡保険500万円を受け取ることが出来ても、残り500万円もの大金を納税しなくてはなりません。
その一方で、次男は現金7,000万円を受け取ることになりますが、納税資金が不足している長男が現金を1円も受け取れないのは不憫だからと、その500万円を負担するとしましょう。

最終的に、次男が受け取れる遺産は6,500万円となりました。2億円もの不動産を相続する長男と次男との間に不公平さを感じるでしょうが、自宅不動産の共有をしないのであれば次男は我慢するしかありません。


●遺留分が問題点に
なんとか収まったようには見えるでしょうが、ここで問題になるのは「次男の遺留分」です。
配偶者や子どもといった近親者には、被相続人が亡くなった際には財産を相続する権利を持っています。
たとえ遺言によってそのうちの1人のみ、または外部の人にすべての遺産を贈ると遺言書などで指定したとしても、主張すれば必ず一定の財産を取得することができるといったものです。
このケースは子どものみになりますから、兄弟2人で分けた半分のさらに2分の1、「2億7,000万円÷2÷2=6,750万円」が遺留分にあたります。

つまり、実際に取得する6,500万円より、遺留分になる6,750万円のほうが250万円も高いことになり、次男の遺留分を侵害していることとなるのです。


■生命保険で問題を解決可能か?
上述した例では、兄弟間の不公平さが浮き彫りになりました。
これを解決するため、もしも母親が生存時に生命保険のセールスマンに相談していれば、ほぼ確実に終身保険を提案されるでしょう。
現金6,000万円で一時払い終身保険に加入し、次男に相続する案になります。

ただし受取人は次男ではなく長男とし、相続時に受け取った保険金を次男へ代償金として支払う遺産分割と想定します。
(遺留分の侵害の解決が前提ですので、ここでは受取人を次男とする想定はしません)
そうすると、生命保険分の6,000万円が遺産から無くなっており、自宅不動産2億円と現金1,000万円の合計2億1000万円が遺産総額となり、遺留分は「2億1,000万円÷2÷2=5,250万円」になります。

確かにこうすることで、次男の遺留分の侵害は解消されるでしょう。
これが考えうる最良の解決方法に見えなくもありませんが、やはり違和感を感じてしまいます。




3. 不動産投資で解決する方法


ここでもうひとつ、不動産投資で解決する方法を考えてみましょう。
ただし、不動産投資は「相続税の対策」であること。「相続問題の対策」ではないので注意が必要となります。
生命保険での解決例では終身保険への加入代として使用した現金6,000万円を、こちらでは投資用区分所有マンション(ワンルームマンション投資)の購入費用に充てます。
不動産が増えることで更に遺産分割の火種を遺してしまうことが気になりますので、母親には公正証書遺言を残してもらうことがまず前提となるでしょう。

投資用マンションを購入したことにより、財産評価が3,900万円(圧縮率▲65%)引き下げられます。
それにより相続税負担も減少し、1,840万円から980万円まで減少。つまり総額860万円もの節税効果になるのです。

節税効果が得られたという事は、もちろん長男の相続税負担も減少します。
この例では自宅不動産2億円を相続する長男の相続税額は約730万円ほど。上述では約1,000万円であったことを考えると、大きな減額となります。
長男の納税負担が減れば次男の負担も軽くなりますし、節税できた分だけ次男に分けることも可能でしょう。

ただし不動産が相続財産となる場合は、生命保険と違って遺留分の算定基礎から除外されないため、次男の遺留分の侵害には注意が必要になります。
このケースでは、節税効果で得られたお金を次男へ渡すことにより遺留分の侵害の問題を解決する形となっているのです。



4. 生命保険が唯一の解決方法ではない


「相続税対策をするのなら、終身保険が一番」という意見は多く見られますが、実際には万能ではありません。
そして、不動産投資が相続税負担の軽減はもちろん、それに伴った遺産分割の問題も解決できることがわかりましたでしょうか。

もちろん、状況や内容によっては、生命保険(終身保険)を選んだほうが効果が高いという事もあり得るでしょう。生命保険と不動産投資の大きな違いは、相続対策の有効性を判断するタイミングです。
相続税負担の軽減は「相続税評価額」によって決められることから、相続時点における資産の形態で算出されることになります。
一方で、遺産分割が公平かどうかは「時価」になりますから、相続してから資産の売却で調整することも可能なのです。
つまり「遺産を相続する」というイベントを迎えたその瞬間の財産評価が最大の問題であり、その時点で算出される相続税額自体はどうすることはできないものの、遺産分割や納税資金の問題はそれほど大きな課題ではないということになります。
となると結局のところ、売却して現金にすることも、賃貸物件としてそのまま維持することも、居住用としてそこに住むことも可能な不動産が有利であると考えても良いでしょう。

ただし、不動産価格の大幅な下落や、地震や水害といった災害など不動産ならではの問題も多いため、100%保険金が約束された生命保険の安定性には敵わないのも事実です。
しかしながら生命保険が相続税対策を解決する唯一の方法ではありません。
生命保険は生命保険の、不動産は不動産ならではのメリットとデメリットを踏まえたうえで、不動産投資を相続税対策として考慮に入れてみてはいかがでしょうか。

小雪