不動産投資にも慣れてきて事業規模も大きくなってきたのであれば、そろそろ選択肢として浮かんでくるのが「法人化」です。個人事業主のまま投資を続けていくという方法ももちろんありますが、法人化することによって生まれるメリットがありますし、したほうが良いという意見が多いのも事実になります。

とはいえ、今の自分の年収で法人化はどうなのか?まだ規模が小さいのでは?など、なかなか法人化に踏み切ることができない方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、不動産投資において法人化したほうが良いケースから、法人化することによるメリットとデメリット、さらには法人化する最適なタイミングまでを解説します。



目次
1. 不動産投資の法人化とは
2. 法人化したほうが良いケース
3. 法人化しなくてもいいケース
4. 法人化するメリット
5. 法人化するデメリット
6. 法人化する最適のタイミングとは
7. まとめ

1. 不動産投資の法人化とは


不動産投資を法人化するということは、投資家を代表とする資産管理会社を設立し、法人として不動産投資を行うことになります。会社を設立するとは言っても、プライベートカンパニーであるため新たな事業活動を行うといったことはせず、法人化する前と投資に対するスタイルが変化するといったことはほぼありません。
不動産投資においての法人化は、設立者(投資家)の「資産の管理」を最大の目的としています。

設立者(投資家)が法人の代表として資本金を支出し、法人として投資物件を購入・保有・管理します。収入は法人から役員報酬という形で受け取るかたちになります。つまり簡単に言ってしまえば、これまで個人として直接行っていたことを、「法人(資産管理会社)というワンクッションを挟むことになる」と考えればよいでしょう。


2. 法人化したほうが良いケース


不動産投資の法人化は節税になるなど、様々なメリットを耳にしたことがあるのではないでしょうか。
しかし、誰でもすぐ法人化すれば良いというわけではありません。そこでまずは、法人化したほうが良いケースから見てみましょう。

■会計上黒字の兼業不動産投資家で、給与所得が年900万円以上の場合
まずは会社員などの本業があり、副業として不動産投資を行っているケースです。
そこから「給与所得が年900万円以上」であり「所有物件が会計上黒字」であるのならば、法人化したほうが良いと言えます。

物件の所得部分の税率が、個人では所得税+住民税で43%であるのに対し、法人であれば15.0%~23.2%と、納める税金が少なく済むのです。


■専業不動産投資家で、不動産所得が年330万円以上の場合
すでに不動産投資家を専業としており、「不動産所得が年330万円以上」であれば、法人化をおすすめします。
給与所得がない専業不動産投資家の場合は、副業の場合とは計算方式や前提が異なるものの、かかる税率は個人ではおおよそ30%以上の一方で、法人であれば15.0%~23.2%ほど。このように、個人税率よりも法人税率のほうが下回った時点で、法人化をすると良いでしょう。




3.法人化しなくてもいいケース


では次に、法人化しないほうが良いケースを見てみましょう。
法人化には設立するための費用をはじめ、様々なランニングコストが発生するため、総合的に見て必要のない場合は法人化にこだわらないほうが良いのです。


■会計上赤字の兼業不動産投資家で、給与所得が年900万円以上の場合
不動産投資が副業で、給与所得が「給与所得が年900万円以上」でありながら、「所有物件が会計上赤字」ならば、個人のままのほうが納税額を抑えることが出来ます。

この場合は“損益通算”によって、所得を減らすことが可能です。つまり、黒字の給与所得から赤字の不動産所得を相殺することで課税所得を圧縮することができるため、法人よりも個人のほうが有利なのです。


■専業不動産投資家で、不動産所得が年330万円以下の場合
専業不動産投資家で「不動産所得が年330万円以下」のケースも、法人化するメリットがありません。
この場合のかかる税率は個人では20%、法人では15%と、一見すると法人化したほうが税率が低いのでは?と考えてしまいがちです。ですが、上述の通り法人化にかかるコストや手間が発生してしまうため、無理に法人化を進めるよりも個人のままのほうが良いと言えるでしょう。


4.法人化するメリット


多くのコストや手間をかけて法人化したとしても、不動産投資に対する事業内容が変化することはありません。そのような中で、法人化したほうが良いと言われる理由とは何でしょうか?


■損失の繰越期間を任意決定できる
青色申告を行っている法人であれば、会計上の赤字(欠損金)を10年間繰り越すことができるようになります。
この損失繰越は青色申告のメリットのひとつではありますが、個人では3年間しか繰り越すことができません。しかし法人であれば10年間繰り越すことができるため、法人税にかかる所得のコントロールがしやすくなるのです。

特に初年度は様々な費用がかかるため、大きな損失を出しやすいものでしょう。これを繰り越しておき、軌道に乗り利益が出始めた頃を見計らってその赤字をぶつければ、相殺によって納税額を減らすことができます。


■短期売却時に有利
投資物件を長期間保有するのではなく、物件価格の上昇タイミングで売却を行う短期売却を視野に入れている場合は、減価償却をしないという選択が可能な法人が有利となります。

所得した物件を売却する際には、個人法人問わず出た利益に対して譲渡税が発生します。個人の場合は“減価償却は必須”であるため、その分譲渡税のかかる利益も大きくなるでしょう。さらに個人の譲渡税率は長期譲渡では20%であるものの、短期譲渡では40%と高い税率になっているのです。状況によっては、売却した利益がほとんど税金で消えてしまった、などということも考えられます。

しかし法人であれば減価償却をせずに売却を行うこともできるため、譲渡税のかかる利益部分を抑えることが可能です。さらに譲渡税率は一律で23%ですので、短期間での売却を予定しているのであれば法人化したほうが良いでしょう。




5.法人化するデメリット


当然ですが、法人化するデメリットもないわけではありません。
上述したコストが発生する点も含めて、ひとつずつ見ていきましょう。


■設立のための手間とコストがかかる
まずはコスト面に関してです。
法人設立のためには、多くの手続きを必要とします。法務局に提出するための書類の作成から始まり、公証役場、法務局などへ提出、会社の実印や銀行印の作成など、とにかく手間がかかる作業です。最短でも1週間、慣れていなければもっと時間がかかると考えても良いでしょう。

さらに設立費用として、資本金、法的費用、登録免許税、司法書士費用など、おおよそ20万前後の費用がかかると言われています。司法書士費用は作業をすべて自分で行うのであればかかりませんが、必要書類の数が多い上に手続きが非常に複雑であるため、依頼したほうが不安はないでしょう。


■ランニングコストの発生
会社を維持するためには、それだけのランニングコストがかかることも忘れてはいけません。
個人事業主でもコストは発生するものですが、法人の場合は税務処理や会計処理が複雑になるため、税理士を雇うことは必須となります。当然、顧問契約を結べばその費用が発生するでしょう。月々の契約料だけではなく、決算時には追加費用がかかるケースもめずらしくありません。
また、法人の場合は赤字であっても住民税の均等割を納税する義務が発生します。


■副業と判断される可能性
不動産投資を兼業ではなく副業として行っている場合、法人化には注意が必要です。
副業を禁止している企業であっても、不動産投資はあくまで投資であり、基本的に副業とみなされないケースが多くなっています。副業規定が厳しいとされている公務員であっても、不動産投資は部分的に認めていることも少なくありません。

しかし法人化となってしまえば“事業である”とみなされてしまうため、副業禁止の規定に抵触してしまう可能性が高くなります。本業を別に持っている場合は、あらかじめ企業規則の確認をしておきましょう。


■長期譲渡所得の優遇税制が利用不可
法人化のメリットとして「短期売却時に有利」とご説明しましたが、これは逆から見ればデメリットにもなり得ます。
個人の場合であれば、5年を超えて売却した場合の税率は「20%」。その一方で、法人の場合は長期・短期問わず一律「22%」で課税されるため、不動産を長期保有してから売却を考えている場合は不利ということになるのです。


6.法人化する最適のタイミングとは


法人化のメリットとデメリットを比較した上で、中には「法人化しよう」と考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、タイミングによっては大きく損をしてしまう可能性もあるため、あらかじめ注意が必要となります。
では、法人化に適したタイミングとはいつなのでしょうか?


■不動産投資を始めるタイミング
たとえば現時点で不動産投資を始めておらず、将来的に投資規模を拡大することを考えているのであれば、最初から法人化することを検討すると良いかもしれません。つまり、「不動産投資の開始と同時に法人化」ということになります。

その理由として、個人で不動産を取得してから後に法人へ移す場合は、費用が嵩むことになるからです。
基本的に不動産を取得する際には、“不動産所得税”と“登記費用”が必要であることはご存知でしょう。しかし個人から法人への資産転移は通常の売買と同じものとみなされるため、再びこの費用が発生するのです。そのため、最初から法人として所得しておけば1回のみの支払いで済むことになります。


■個人よりも税額が低くなるタイミング
とはいえ、不動産投資のスタートが法人化するところから、というのはなかなか敷居が高いかもしれません。また、すでに不動産投資を始めているのであれば、やはり次のタイミングは「個人よりも法人のほうが税率が低くなった時」となります。
最初にご説明した通り、個人の税率よりも法人の税率が低くなったタイミングが、法人化の見極めポイントになるでしょう。


7.まとめ


不動産投資での法人化について、メリットから最適なタイミングまでをご紹介しました。

不動産投資で法人化することによって、税制面などをはじめとした大きなメリットが得られる反面、設立するための手間やコスト、維持費の発生のようなデメリットも存在しています。また、投資方針や状況によって法人化に適したタイミングも異なるため、不動産投資の経験が浅いうちは非常に難しい判断と言えるかもしれません。

不安を感じるのであれば専門家に相談、場合によっては実際にアドバイスを受けることも視野に入れることをおすすめします。

小雪